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イビジェカフェトップ > ターザンカフェトップ > 夢香日記[2008年05月03日()]
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5月2日。朝6時半、目が覚める。昨日の日記は夜中の2時までかかった。眠い。

 そうだ! 昨日、ターちゃんからおはぎをもらったんだ。朝食代わりに食べていこう。

 バッグの中に手を入れる。アレ!? ない。ここにいれたはずなのに・・・。辺りを見回す。近くにおはぎを包んでいたサランラップのかけらが落ちていた。

 もしかして!?

 急いでリビングへ行き、ソファーの上に仰向けで寝ているアリスのおなかに手をあてる。いつもよりポッコリふくらんでいた。

 「ちょっと、あなた、私のおはぎ食べたでしょう?」

 メスのミニチュアダックス、8歳。茶色のロングヘアー。うっすらと目を開けるが、あとはしらんぷり。アチャー、やられた!

 飼い主に似て、自己主張が強い。諦めて会社に向かった。





 昨日、ターちゃんと海外旅行の話をした。飛行機が好きな私は、これまでに10回は海外旅行をしている。たいしたものだ、とターちゃんも驚いていた。

 

私が一番好きな国は、イギリス。短大時代に夏休みを利用して、1ヶ月間ホームステイをした。ボーンマスという最南端にある海岸沿いの町。ロンドンから車で2時間。郊外だけあって、ひとつひとつの家が大きく、道路もきれいに整備され、暮らすには最高の場所だった。

 ステイ先の家からバス停に向かう途中、70歳くらいのとても上品なおばあさんに出会った。すれ違いざまに、

 「ハロー!」

と、見ず知らずの外国人である私に、笑顔であいさつをしてくれた。一瞬で、その国民性に魅了される。それ以来イギリスの大ファンに。



 

次にイギリスを訪れたのは、今から4年前の夏休みだった。

 当時、離婚して2年になろうとしていた。別れた夫はロンドン大学に留学中。



 25歳の時、父の勧めで地元の区議会議員選挙の手伝いをした。候補者は30歳の男性。無事に初当選を果たすと、それをきっかけに交際を始め、翌年に結婚。私の実家から歩いて1分のところに新築の家を買った。

 夫の仕事柄、人の出入りが激しく、プライベートな時間も空間も思うように作れない。そのうえ、あちらを立てればこちらが立たずで、常に人の監視にさらされた状態に。

 夫は新人議員のため要領がつかめず、周囲に振り回されっぱなし。次第にストレスが溜まっていく。

 

結婚して2年半が経った10月のある日、朝早くに家のチャイムが鳴った。大工が3人。突然、玄関の横の壁を叩き壊し始めた。玄関のすぐ横にある部屋を事務所として使うため、出入口を作ろうと、支援者が勝手に決めたらしい。

 我慢の限界に達した私は、半ば強引に家を出た。

 夫も4年間の任期を終えると、次の選挙には出ずに、イギリスへ渡った。



 

 特に夫のことが嫌いになったわけではない。勢いよく離れたけれど、1度はちゃんと向き合わなければ・・・。そう思っていた私は、別れた夫に会うため、ロンドンへ向かうことにした。

 離婚してから1年10ヶ月。なぜ今さら会いに行くのか? どんな風に過ごすのか? そんなことを思いながら、飛行機で12時間。ヒースロー空港に到着。久しぶりに会う元夫は、日本にいた時より若返って見えた。

 

そのまま空港でレンタカーを借りる。午後3時。彼の運転で高速道路を北へ向かった。途中、緑の草原が果てしなく広がり、馬の群れや牛の群れが見えた。外国へ来た実感がわく。ここなら私たちを知る人はいない。やかましく言う人がいないという安堵感があった。

 

2時間ほどで、コッツウォルズに到着。そこはイングランド中央部に広がる標高300メートルに達する丘陵地帯で、特別自然美観地域にも指定されている場所。

古いイングランドの面影をそのまま残した建物が並び、昨年日本で公開された映画「ミス・ポター」の主人公ビアトリクス・ポターの生地でもある。彼女はこの地でピーターラビットの物語を創った。

 

 ペンションのような小さなホテルに泊まる。丘の上にあり、窓からの景色に感動する。経営者の夫婦と話をして過ごす。ハネムーン? と聞かれた時はさすがに返事に困った。

 私たちは毎日車で少しずつ移動し、この地帯に3泊した。そのあとケンブリッジに1泊。コッツウォルズの田舎町とは違い、学生でにぎわっていた。



翌日ロンドンへ戻ると、そのまま飛行機でコペンハーゲンへ。何をするわけでもなく、ただ街にとけ込む。繁華街を歩く。路上のパフォーマンスを眺める。疲れたらカフェでコーヒーを飲む。私たちはただ誰からも干渉されずに過ごしたかっただけだった。

3日後、再びロンドンに戻る。一緒に旅をする途中で結婚生活の様々な場面を振り返った。あの時ああすればよかった、こうすればよかったと、自然に言葉が出てくる。やりきれなかった思いがようやく流れ出たような気がした。



最後の1日をロンドンの公園で過ごした。芝生の上に寝そべり、空を見る。横でポツリポツリと彼が話し始めた。

「こっちでは日本のテレビはNHKしか見れないんだ。この前テレビをつけると、皇太子が会見していて、雅子は、雅子は、って必死に雅子様をかばっていたよ。それを見てたら、俺ももっと夢香のことをかばってやればよかったって思った・・・」

 その言葉を聞いた途端、胸がスーッとしていくのがわかった。ようやく結婚生活にピリオドが打たれた気がした。

 翌日、私はひとりロンドンから飛行機に乗った。こうして10日間のタイムスリップが幕を閉じた。



 今でも元夫は私の家の近くに住んでいて、時々顔を合わせる。あの旅行のおかげでわだかまりがなくなり、今ではいい友達に。

旅行、すなわち空間移動は、時として想像以上に大きな癒しになってくれるものだ。





離婚からすでに5年。今ではその時の物はほとんど残っていない。私の生活も随分と変わった。ターちゃんは私に、ホントに結婚してたの? と言うほど、私に結婚は似合わないらしい。

唯一残っているのがアリスだ。結婚してすぐ、夫と一緒にペットショップに出かけて買った犬。



私たちの離婚によって、アリスは父親と別れた子どものような寂しさを味わっている。

そういえば、最近も忙しさにかこつけて、彼女と一緒に遊んでいない。

もしかしたら、今朝のアリスの行動は、好き勝手に生きる私への、小さな反撃なのかもしれない。


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